フレタイココロ


お前から与えられたその熱は、
未来永劫、オレの中に残り続けるのだろう。


消えることなく
衰えることなく
育つことなく
なんの変化を、することもなく。

その熱は、残り続ける。



最初で、これが最後だからと追い詰められていたオレは、
あの夜心の底から『忘れたくない』と願った。

この記憶があれば、慰めになる
この記憶さえあれば、慰められる。

まさかそれがオレを苦しめることになるとは思いもせずに、
あの時オレは、『ずっと覚えておこう』と刻み込んだ。


あまりにも、強く、深く、刻み込んだから。

何も変わらずに、
そこにある、お前の熱。

だた、そこにある、
お前の……熱。








あれから随分と時は過ぎた。
何度同じ状況を体験したのか分からない。
いい加減、慣れればいいものを。
どこかに呆れる自分がいるのは確かだった
なのにオレは、いつも苦痛を味わう羽目になる。


今、オレの前に立つお前。

その顔を見た瞬間、
かつての熱は、やはりいつものように蘇った。



熱い、熱い、お前から与えられた、熱。

決して縮まることのないあの距離が、
今のお前を感じられないその距離が、
僅かで、途方もない、この距離が。
過去の熱を、まるでそこにあるように、
リアルにオレの中に蘇らせた。

熱い、熱い、記憶の中のお前が生み出す熱


……覚えている


けれどもそれは、慰めにはならなかった。
それは、苦痛以外のなにものでもなかった。

オレが今欲しているものは、そんなものではないのだから。





さりげなく、お前の指に視線を向けた。
何気なく、お前の唇に視線を向けた。

フレテホシイ、ソノ ユビ デ
フレテホシイ、ソノ クチ デ
フレテホシイ、
フレテホシイ。
イマ ノ オマエ ガ モツモノ スベテ デ


熱い、熱い。どんどん熱くなる……なのに。
何の、刺激も、感じない。

熱だけを記憶しているオレは、中途半端に放り出されるだけ。


「ご機嫌麗しゅう、ファラオ」
「ああ」


何でもない顔をして、表皮の下へ熱を押し込める。
今にも皮膚を破って噴出しそうなその熱を、オレは必死に押し込めた。

猛り狂う過去の熱に翻弄されている。
そんなオレには気づきもせずに、お前はオレの横をすり抜ける。


苦しい、苦しい。
元はお前が与えた熱だというのに、
全くなんにも気づかないなんて!


だから自分勝手な気持ちだとは分かっていても、
オレは心の中で、お前に恨みごとを言わずにいられなかった。



オレからは、この距離を縮めることは出来ない。
オレには、立場というものがある。
皆の手本となるべきこのオレが、
それを壊すわけにはいかないじゃないか。

簡単なことなのだ。
お前が、オレを、呼べばいいだけなのに。
それが
オレたちの関係を変えることなく振る舞える
ただ一つの方法だったのに。

どうしてお前は、そばに来てくれない?
どうしてお前は、オレのそばにいない?!
どうしてお前は、オレのそばにいてくれなかったんだ!


だが、一方で理解はしているから。
お前に訴える事はしない。

クソ真面目で、不器用なお前が
それを出来ないことを。
プライドが高くて、意地っ張りなお前が、
それを出来ないことを。

何よりも、オレよりも。
お前がそれを望んでいる事を。
だからこそ、どんなカタチであれ、
お前がそれを、待っていることも。

何もかも、全て、全部。理解、している。



本当は……オレが動くのが一番なんだ。
でも、
オレにはできない、絶対に許されない。

だからたった一度きりなのだと、
オレはあの時覚悟した。





この肌の下に、荒れ狂う熱を封じ込めて。
オレは大きな背中を見送った。


きっと、俺はずっと
疼く様なこの熱に浮かされて

こうしてお前を見つめ続けるだろう。
この先も、遠くから。
お前のことを、見続けるのだろう。



ああ、セト。
悪かった。
恨み言なんて、言ってはいけない。

いいんだ、別にいいんだ。
気づかなくても、そんな些細な熱には気づかなくても。

でもいつか、気づいてくれるなら。
もしも何かに気づいてくれるなら。

オレはこれに、気づいて欲しい。



―― オマエ ニ フレタイ……オレ ノ、ココロ――



それが現実に在ったことに気づいてくれたなら、
それだけで、オレは……







fin.







Top◇