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■アニメ#59
大抵感想を書く時は、読む人がいることを意識しているのですが(あれでも、です…)。今回は、全くそのつもりなく書きます。 #59におけるジャックやカーリーの言動に対し、わずかでも疑問をお持ちならばご覧にならない方がよろしいかと。都合の良い解釈や盲目的な発言で埋め尽くされているものと思われます。 所詮個人の思い込み。 けれど真実がどうであろうと、ジャックとカーリーが愛しいと感じる心を形にしたい。 Scene.1 わぁっと歓声があがった。 爽やかな青空の下。公園に設置されたデュエル広場では、未来のデュエルキングを夢見る子供たちが対戦している。その様子をカメラにおさめている一人の少女がいた。彼女は本当に嬉しそうに、シャッターを切るのだった。 「カーリーってば、将来は取材記者にでもなるつもりなの?」 芝生の上に並んで座り、カメラの映像を見ながら少女の友人は言った。 「え〜?わかんないけど…ただ、わたし、頑張っている人を見るのが好きなの」 「ヘンなの…他人が頑張ったって自分は幸せになれないじゃん」 「そんなことないよ〜」 カーリーと呼ばれた少女は、うーんと伸びをして寝転がり。高い空を見上げて笑った。 「頑張ってる人を応援してると、わたしもちょっとだけ頑張れる気がするの。それがわたしの、幸せなんだから」 * * * ・『頑張る人が好き』 カーリーがジャックに惹かれた一番の理由=ジャックが、頑張っていたから。 カーリーは〈キング〉には全然興味なかった。『ジャックみたいにカッコつけただけのキザなやつは、大っ嫌い(アンジェラの証言)』って言ってたくらいだから、他の人のようにはキングジャックを見てはいなかった。無敗を誇るキングは自信たっぷりで、傲慢ですらあって。カリスマ性を感じさせていたけれど、カーリーにとってはどれも魅力にはなりえなかった。 ジャックはキングである時、かなり派手に演出してたしどんなことでも難なくこなしてるように見せていた。誰の目にも明らかに、そしてどの目にも同じように〈見せる〉ことができるのは、それなりの能力や技があるからこそ。けれども、何もしないでトップに立ち続けることはできない。そう〈見える〉ように、彼は努力をしていた。けど、努力している姿を〈見せる〉ことは絶対にしなかった。プライドが高いから、努力などしていないと思わせたかったのだと思う。 誰にも見られる筈がなかったジャックのその一面を、感じられたのは多分カーリーだけ。いつも引き合いに出して悪いけど、狭霧さんはキングに心酔してるから、カーリーとは捉え方が違うと思う。とにかく、キングでいる為に頑張っているジャックをカーリーは知る。『カッコつけた』だけの『キザなやつ』じゃなかったと知った。 ・『ストリートにもスターはいる…でも所詮は街角の星。彼らが報われる事は少ない…わたしも』(#27) それでも表街道を突っ走る!そんな夢を見て頑張っていたカーリーだから、実際にサテライトという最下層から頂上に上り詰めたジャックの経歴を知って、ジャックがどれほど頑張ったかというのがよく分かったと思う。才能があったとしても、状況的にはかなり難しい(というか不可能に近い)ことをジャックはやり遂げたのだから。もちろん、そこに辿りつくまでに長官の手引きがあったし努力無しに最初から準備されていたものもあっただろう。けれど、それは相当のものを引き換えにしたからこそ手に入れられたもの。なのに、全ては無になった。積み上げてきたモノは一気に崩れて、なくなってしまった。 カーリーは、トップに立つまでのジャックの努力を感じて、トップから転がり落ちて全てをなくしたジャックの心を知って、そして、もう一度、一からやり直そうとするジャックの再出発を見た。 『頑張っている人を見るのが好き』 『頑張っている人を応援するのが幸せ』 ただ頑張っている人じゃない。ジャックは、絶望の中で頑張っている人。カーリーの心がどれだけ動いたか、それを想像するのはそう難しいことではない。 ・ジャックにとって、こういう人が傍にいてくれたことは、本当に、救いになったと思う。うわべだけのカッコよさだけじゃなくて…モノレールの乗り方も知らないとか、つつけばムキになって喋り過ぎたりとか…そんなトコを見てもガッカリしない、勝ち続けている間だけ応援して、負けたら「なーんだ」と呆れて離れていくような、そんな人間じゃない。本物の、素のジャックを受け止めてくれる人。カーリーだから…カーリーで…よかった… Scene.2 D・ホイールを停止させ、ジャックとカーリーはにらみ合っていた。 「これを見ろカーリー!」 割れたメガネを突きつけるジャック。それを目にしたカーリーの表情に、僅かだが変化が。 「思い出せ。この俺が知っているカーリーは、地獄と化した世界で幸せを手にすることなど、望む奴ではない!!」 目の前に立つ女は〈彼女〉ではないと信じたいから…厳しく、本物を見定めようとジャックはカーリーを見つめた。そして訴える。自分の知る、かつての〈カーリー〉に届くように。 「そんな…そんなことは、ない!」 「カーリー!」 動揺する心を隠すかのように、カーリーはD・ホイールを発進させた。もう少し、もう少しで届きそうだ。掴みかけた希望を逃がしはしないと、ジャックはその後を追う。 …彼女の中では、何かが揺らぎ始めていた。占いが示した〈運命〉に、間違いはない…そう信じたいのに、動揺する心。真っ黒な闇が充満したそこに、影響するものなどなかったはず。けれども、ほんのわずかに開いた隙間から、不安が流れ込んでくる。怖い、怖い、これは何?気づいてはいけない、〈それ〉に、気づいてはいけない!自分に言い聞かせるように、カーリーは言い放った。 「私がダークシグナーとして蘇ったのは、貴方と一緒にこの世を地獄の色に染めて、二人で世界を支配する為!」 (そうでなければ私は…私は…!) 「それが私の望み…私たちの、定められた運命なのよ!」 「違う!」 ジャックは切り捨てるように否定した。カーリーの信じる運命を、否定した。そしてその理由を、彼女に教えたのだ。 「かつてのお前は、まやかしの運命に翻弄され、ゆき場を失っていた俺を目覚めさせてくれた!!」 (私が…目覚めさせた?) その瞬間、カーリーの脳裏に蘇った情景があった。 美しかった夕日…その中で、初めてジャックが見せてくれた。偽らない姿を、本当の、心を。そうして思い出す…自分自身の、言葉。 『遊星との闘いで、今までのジャックは死んだんです。これから、本物のジャック・アトラスを生きるんです。…そして、本当のキングになればいいじゃないですか…』 今までの…死んだ…本物を…生きる… カーリーは、まばたきを忘れたように宙を見据えていた。 ジャックは更に畳み掛ける。 「俺はあの言葉を忘れない!だから俺は、お前の言う通り、己自身で生き方を決める!!」 かつて。理想とされるキング像に近づこうとジャックは必死だった。己の原点となるものを切り捨ててまで望んだもの。後戻りは出来なかった、振り返ることは許されなかった。進む道に間違いはないと信じ、先に待つものは絶対の運命だと疑わず。立ち止まる事はなかった。 求められるままに〈キング・ジャック・アトラス〉を演じ続けて、ジャックはいつしか〈自分〉を見失った。遊星に敗北し、キングという肩書きを奪われた時、〈自分〉であった筈のものは霞のように消えた。後には何も残らなかった。何もない、空っぽの〈俺〉…。愕然とするジャックに、周囲は様々な〈ジャック〉を示してみせた。『サテライト出身のジャック』『敗者のジャック』『嘘つきジャック』『カッコいいジャック』『デュエルキング、ジャック』…どれも自分のようで、自分のようではない。自分に迷うジャックをさらに追い詰めたのは、昨日までとは全く違う周りの態度。そんなに〈自分〉は変わったのだろうか?それすらも分からず、ジャックは混乱していた。そんな時、カーリーが言ってくれたのだ。 『今までのジャックは死んだ』のだと。 死んだ…ならば、ないのは当たり前ではないか。ストンと納得した。彼女は続ける、これから『ジャック・アトラスを生きればいい』。本物の、〈自分〉を、生きればいいのだと。 光が見えた。先があるのか、後ろがあったのかもわからない…そんな心に光は差して、道があることを教えてくれた。道には先があった。先には、希望があった。そこに何があるかは分からない、ただ、自分で創造できる何かがあることをジャックは悟った。 選ぶのは自分、捨てるのも自分。創るのも、壊すのも、なにもかも決めるのはこの〈自分〉。それが、生きるということなのだ。 前を走るカーリーの背に、ジャックはそっと誓った。 (カーリー。俺は必ず、『借りは返す』!演じられた〈キング〉ではなく、生きている今の〈俺〉が、お前を救う!!) * * * ・メガネを大切に持ち続けたジャック。ビン底グルグルメガネをかけていたカーリーは、着飾ることのないモッサリした女の子だった。けど、ジャックには、見た目は問題じゃなかった。ドジだけど一生懸命で優しいカーリーのいい所を、きちんと見定めていた。彼にとって、このメガネを掛けていた頃のカーリーが本物なのだ。 ・ジャックにメガネを突きつけられて、揺れ始めるカーリー。揺れるのは、今まで言っていたことが本心ではないから。カーリーは占いの結果を『決まった運命』と信じた。けど、彼女が信じたのは、この世を地獄にする事じゃない。世界を支配する事じゃない。きっと彼女が信じたかったのは、ジャックと一緒にいられる未来だけ。 それは心から望んだことだけど、叶えられない望みだと知っていた。彼女はもう、死んでいるのだから。二度と戻れない、決して手に入れられない。求める気持ちが本物だからこそ、絶望は生まれる。カーリーに占うよう囁いた〈声〉が付けこんだ心の闇は、ここなのかもしれない…カーリーが感じた絶望=カーリーの妄想の世界、のイメージ。絶望の中にあっても、ジャックと一緒なら…という気持ちがあったのか。 ・『あの言葉を忘れない』 ジャックにとって、カーリーの存在が救いとなったのだということがうかがえる台詞。忘れられない言葉を贈ってくれた人を、大切に思わないはずがない。ジャックがカーリーに情を感じるようになったきっかけは、そこにあったということ。 遊園地デートまでは、特に何の感情もなかった。牛尾とのデュエルを手伝ってくれたこと、病院を抜け出す手助けをしてくれたこと、その後手当てしたり面倒を見てくれたこと。これらについては、借り・貸しの関係が生まれただけ。それが、タワーでの一件で変わった。 カーリーがあの言葉をくれたというのもあるけど、もう一つ。ジャックはその時偽らざる自分を曝け出している。カッコつけの彼なのに、弱音を吐いたのだ。カーリーはそれを何でもないことのように受け止めたから…ジャックの中でカーリーの存在が他と違う〈何か〉に変化する用意はあったと思う。 遊園地デートからジャックがカーリーの元を去るまで、二人がどれくらいの日数一緒に暮らしていたのかは分からない。けれど、そんなに短い期間ではなかったのではないか。 といっても、その間二人の間に特別なことは何もなかった。普通の、日常生活を送っただけ。カーリーが、ジャックが去った後に口にした恨みごと…とっておきの紅茶出したのにとか、男物のクリーニング出しに行くの恥ずかしかったとか。食費返せも言ったな、とにかく、そこにはロマンスのロの字もない。だから何もなかったと思う。 カーリーはジャックに惹かれてるから、ちょっとしたことでドキドキしたり嬉しかったりガッカリしたり『ひとりで空回りしてる』と悔しかっただろうけど。その間、ジャックはゆっくり変わっていた。タワーでのやりとりから、彼はカーリーを見る目を変えた。今までと違う目で、世話をしてくれるカーリーの言動を見ていた。それはすぐに愛しさに変化するものじゃなかったと思う。カーリーはアピールするような女ではないもの…彼女のすることは目立たなくてさり気なかったから、ジャックの心の中で生まれた小さな感情は少しずつ少しずつ育っていってジャックが気づかない間もどんどん大きくなって、そうしていつの間にか大部分を占めるようになっていた。きっかけさえ与えられれば自覚するような、そういうものだったのでは。 案外、ある日突然に見える感情ほど、深くて大きいものなのかもしれない。 Scene.3 ジャックは賭けに出た。 「チェンジ・デステニーは、攻撃を無効にしたモンスターの攻撃力の半分のライフを回復するか、その数値のダメージを相手に与えるか、いずれか一つを選択する!…その権利を得るのは、お前だ!!」 「なに!?」 信じられない宣言だった。フォーチュンレディ・アーシーの攻撃力は2800。カーリーのライフが1400回復するか、ジャックが1400のダメージを受けるかの選択なのだが。ジャックのライフは現在800、彼がダメージを受ければジャックの負けが決定する。勝負の行方を左右する選択を、ジャックはカーリーにさせようというのだ。どういうつもりなのかとカーリーは訝しげに振り向いた。 「どうして?さっきはアーシーの攻撃をかわしておきながら、今度はダメージを受けてもいいというの!?」 「定められた運命など存在しないことを、お前に知らしめる為だ!」 「……」 「俺はお前を信じている!お前自身で、運命を選択するのだ!!」 (ふふ…馬鹿なジャック…散々焦らしておいて、結局は私の言うことに従うのね…。いいわ、今度こそ、私のものにしてあげる!) 「私は貴方に、ダメージを与える効果を…」 勝負はついたと笑みを浮かべ。運命の選択を宣言しようとしたカーリーの息が、止まった。 「!?」 紫の瞳が、真っ直ぐに自分を見つめていた。 目があった瞬間、彼女は捕らわれる。さっさと決めてしまえ、そう思うのに。振りほどけない…このまなざしを。 「私は…」 知ってる…知っていた、この熱い瞳。強く、ひたむきな、この瞳。 「私は…」 言えない…だってこれを… 「私は…」 見ていた…感じていた。共にある時、私は知ったんだもの!彼のことを、そして私の望みを!! カーリーは低く呟いていた。 「…私のライフを回復する効果を選択…」 ハッとするジャックの前で、カードの効果が発動する。彼は攻撃を受けることなく、カーリーの回復を見守った。 「カーリー…」 信じていたけれど。ジャックは己の目で確認しようと、カーリーの横に並ぶ。 「カーリー、お前…」 「ジャック…」 振り向いたカーリーの目は、きれいに澄んでいた。 「元に戻ったのか」 ホッと力が抜けた事で、ジャックは自分が思いのほか緊張していたことを知った。 「ごめんなさい…私、ホントはこんな闘い、望んでない」 「ああ、お前は決して人を傷つけるようなことをする奴じゃない。俺は誰よりも、そのことを分かっている」 「ジャック…!」 * * * ・占いについて。結果を示された時、そこに自分の望むものが僅かでもあるならば、人は自ら結果に向かって進むように道を作る。そうして、占いどおりの未来を手にして「占いは当たった」と驚く。当たったのではない、自分でそうなるように動いただけなのに。 カーリーは『ジャックと一緒にいたい』という望みを抱いていた。彼女の言う『定められた運命』は、占いの結果にすぎない。定められていると信じたい、運命と決めつけたい…単なる占いの結果。 彼女は死ぬ前に強く望んだ『ジャックと一緒にいたかった』という気持ちを利用され、大好きな占いを利用され、結果を再現しようと自ら動いている。 ジャックは、カーリーの望みまでは分からないにしても、この動きを察知している。だから、カーリーが信じているものが本物なのか彼女自身に『疑え』と伝えている。 『お前自身で、運命を選択しろ』 運命というものがあると信じたいのなら、それは信じてもいい。けれど、そこに向かう道はひとつじゃない。別の結果を選択する余地があるのだということを教えたいのだと思う。道だけは自分で選んで、そうしてそこから続く運命を己の力で手に入れろ…まさに、ジャックがカーリーから示された、生き方と同じこと。 ・ジャックの真っ直ぐな視線を感じて、すぐには選択できなかったカーリー。ジャックの瞳の中に、かつての自分たちの姿を見る。 取材対象である〈キング〉にしか用はなかった、始まり。デュエルの中で〈キング〉としてのジャックの質を感じて、そして、一緒に暮らす中で生身の〈ジャック・アトラス〉を知った。変化していった自分の心を一つずつ確認して、カーリーは、自分が本当は何を望んでいたのかを思い出した。 ダグナーになってから出会ったジャックに彼女が『会いに来て』と言ったのは。ジャックに止めて欲しかったからなのかもしれない。カーリーは何を恨んでいたわけでもないから、ダグナーとなっても元のカーリーでいる時間が長かったのではないだろうか。あの占いは、ジャックと再会する前のことで、それにより違う自分になる時間が増えていき彼女は不安になった。自身が死ぬ前に望んだ『ジャックと一緒にいたい』、その気持ちが、世界をメチャクチャにしようとしているのだとどこかで気づいていたのかも。占いを運命だと言うダグナーになりきるには、カーリー自身のヒトが良すぎたんだ…。 『わたしに会いに来て』 会いに来て、止めて欲しい。それがどういうことかは分かっている。だから生きている時に伝えられなかった気持ちを、口にした。 『…愛しいジャック』 ・ジャックはカーリーが人を傷つける人間ではないことを知っていた。 自分が死んだからといって、一緒にいたいと望む相手を殺す…そんな選択をする人間じゃないことをジャックはちゃんと分かっていた。ジャックは序盤にチェンジ・デステニーを伏せていたる。そうした『仕込み』をしておいて、探りを入れた。攻撃も防御もせず、カーリーにやられっぱなしだったのは、カーリーがどういう状態なのか確認する為だった。最初は会話で、カーリーが本当にダグナーなのかを確認して(それは自動的に、彼女が死んでいることの確認に繋がってしまうのだけれど)、次に、彼女が何に捕らわれているのか(彼女を操る者が別に存在するのか、それとも彼女自身の意思なのか)見定めた。ただ、やられていただけじゃない、無様な姿をさらしてでも彼女を元に戻す糸口を見つけた。そこで、チェンジ・デステニーの効果を利用する。ジャックはカーリーが彼を攻撃することはないと確信していたんだ。自分のライフを回復する効果を選択するのは、元のカーリーしかありえない。ジャックが確信していたのは、カーリーが元に戻ること。もしもジャックを攻撃する道をカーリーが選んだとしても、ジャックはやられはしなかったと思う。その時はその時で、最終的に負けることのない手を打つ自信が彼にはあるから(そうでもなきゃ、救ってやるなんて言えない)。でも、その手を先に用意してはいない。彼は逃げ道は作ってない、相手を本気で信じるなら逃げ道を作ってはいけないと考えて。万が一、攻撃されてもその後で対処できるという自信があるから、出来る事なんだけど。 彼はカーリーを救う為に『どんな手でも使う』と言った。それは、無様でも、カッコ悪くても、そんな姿をさらしてでもと言う意味なのだと私は思っている。 ・戦いを望んではいなかったと言うカーリー。『こんな戦い』…こんな形の、戦い。ジャックとするデュエルが、こんな形だなんて。そこに、普通にジャックとデュエルをしてみたかったという気持ちがあったのだと、思ってもいいだろうか…。その気持ちがあったから、この戦いがある。望んでいた形ではなかったけれど。 ・『決して人を傷つけるようなことをする奴じゃない』と言い切ってくれたジャック、『お前のことを誰よりも分かっている』と伝えてくれたジャック。カーリー、嬉しかっただろうな…。大好きな人に、傷つけたのにそれでも『信じる』と言われたら。その気持ちには、どんなことをしても応えたいと思うだろう…。 Scene.4 ジャックとカーリーの間に、穏やかな空気が流れた。戦いの最中であることを忘れさせる、あの頃のような空気が…だが、それは束の間のことだった。 突如、腕を押さえ苦しみ出すカーリー。ダークシグナーであることを知らしめる刻印から、禍々しい黒霧が発生する。 「カーリー、どうした!」 驚くジャックの目の前で、霧は粘着質な闇と化し、蜘蛛の形を模した。デュエルを続行することを要求し、それはカーリーの口を介して体内へと消えた…。 次の瞬間、カーリーの表情は一変した。カッと見開かれた瞳は、不気味な光をたたえ、ジャックに明らかな殺意を向ける。そこに、先程までの〈彼女〉はいなかった。 「おのれ…」 ジャックは知った。真に倒すべきダーク・シグナーはこの闇なのだと。カーリーはやはり、操られていただけなのだ。心の隙に付け込まれ、利用されているだけの。 「許さん…許さんぞ!ダーク・シグナー!!」 ジャックの反撃が、始まる。 * * * ・やっとのことでカーリーを目覚めさせたのに。カーリーを闇に引きずり込んだ〈声〉は、彼女の傍にいた。カーリーが完全にダグナー化できないことを読んでいたのかもしれない。 ここでようやく、ジャックは本気になる。カーリーとのデュエルは、勝負が目的ではなかった。戦いの姿勢は消極的だったけれど、それこそが元のカーリーを取り戻すことが目的であったという証拠。最終的にライフがゼロにならなければ問題はないと、攻撃を受けてもジャックは気にしていなかった。けれども今、ハッキリと敵の姿を確認して。彼はこのデュエルにおいて初めて闘う意思を見せた。 利用され、操られ、まやかしの運命を本物と信じて望まぬ道を歩むカーリーに、ジャックはかつての自分を重ねたのかもしれない。あの時はカーリーが目覚めさせてくれた。今度は、ジャックがカーリーを目覚めさせる番。倒すべき敵が明らかになって、カーリーを助ける理由も納得がいく。ジャックが本気になるには十分だ。 ただ、相手が途中で変わったようなものだから、ジャックもいきなりは戦術立て直せないだろうし、敵の正体が分かってもその体はカーリーのものだし。分が悪いことには変わりない。というか、条件は悪くなっている。多分、倒す事は出来ると思う。けれどもジャックはカーリーを犠牲にするような選択をしたくないはずだから… 『邪悪なる心を、真実の炎で焼き尽くしてくれる!』 闇を排除して、元のカーリーに戻すことをまず考える。 『カーリー…目覚めてくれ…』 ジャックがカーリーに傷をつけるようなことになる前に。元のカーリーに戻る事を、願っている。 Scene.5 カーリーを操る〈闇〉を粉砕せんと、レッドデーモンズドラゴンでアーシーを攻撃したジャック。だが、その衝撃によりバランスを崩したカーリーは、彼女が操るD・ホイールと共に地上絵の炎の中に消えた。 「カーリー!」 攻撃は通った、しかしカーリー自身を傷つけるわけにはいかない。ジャックは自分に対し舌打ちし、カーリーの姿を探した。 少しでもあの不気味な〈闇〉にダメージを与えられていれば… 「カーリー、カーリー!無事か、返事をしろ、カーリー!!」 正気に戻っていて欲しい、いや、それよりもまず。無事な姿を… 「!!」 炎に包まれながら、カーリーのD・ホイールが現われた。どうやら、乗っている彼女に怪我はないようだ。ホッとしながらもジャックは鋭い視線で探りをいれる。カーリーの状態は、一体… 「うう…」 苦しそうに唸るカーリー。顔を伏せ、肩を震わせて…直後見開かれたその瞳は。 「!!」 ぎろりと冷たく、ジャックを睨みつけた。ドクンと嫌な動悸が打つ。愕然とするジャックの横をすり抜けて、カーリーは前に出た。 ぎりりと歯をくいしばり。ジャックはありったけの想いを声に乗せた。 「カーリー!!!!」 細い背中は振り返らない。 目の前を走るのは、自分を倒す事しか考えていない〈敵〉。そこにはどんな隙も、見つからなかった。 「(もう…どうやっても…)」 もはや、余裕はなかった。これ以上の攻撃は、受けるわけにはいかない。ジャックの計算では、戦況をひっくり返すにはここがギリギリのラインだ。この先、すぐにでも攻撃に転じなければ。敗北が必至となる。それだけは、許せない。絶対に、負けるわけにはいかない。 「(…お前を元に戻す事はできないのか…カーリー…)」 次々とカードを展開していくカーリー。迷っている時間はない、もう、結論を出さねばならないところまで来てしまったのだ。 「ウィンディとウォーテリーをリリース!」 「来るか!!」 ついに準備が整った。地縛神降臨の準備が。 「5000年の時を超え、冥府の扉が開く!我らが魂を新たなる世界の糧とするがいい!!」 邪悪なる神の誕生…そこには人々の犠牲がある。操られているとはいえ、カーリーの手により行われるその儀式を、ジャックは悲痛な眼差しで見つめていた。もし、本物のカーリーがこの光景を目の当たりにしたなら… 「(どれほど自分を責め、嘆き悲しむだろう…)」 それをさせてしまった自分に対し、ジャックは怒りを感じた。苦しみの中にある彼女を、どんな手を使ってでも救うと誓ったのに! 「俺は命に代えても、お前を止めてみせる!」 * * * ・敵の正体は分かった、と同時に、カーリーが正気に戻る可能性を持ったまま操られているのだと知って。ジャックにとって、目の前のダグナーはますます戦いにくい相手になった。 最初の攻撃では、〈闇〉だけにダメージを与えられはしないかと期待したのだと思う。カーリーに傷をつけずに、〈闇〉を排除できる方法があるならばとジャックは模索している。けど、そんなことでは〈闇〉はカーリーから離れてくれなかった。 呼びかけても〈彼女〉は応えない、どころか、容赦なく攻撃してくる。先が読めるだけに、ジャックには『勝ちにいく』余裕がなくなっていることが分かってしまう。 これ以上は無理だという線が引けるから。 勝敗を決する線。それを越えた時、ジャックは必ずカーリーを倒す為に決定打を繰り出さなければならない。負けることは、許されないのだから。 それまでになんとかしたいという気持ち…ただ呼びかけるしかない、ジャックの気持ち。 デュエルを愛するジャックだからこそ、デュエルを通してカーリーを救いたかったはず。どんなに不本意な展開でも、手段を選ばず。でも、もう、彼女を倒す為の手しか残されていない。それ以外の方法を考えつかない。そうしたら、呼びかける以外ないじゃない…。 どうしてもカーリーに届かない声。ジャックの中で、『もう駄目なのかもしれない』という可能性が生まれたのはこの辺りか。それまでは、ダメかも、なんて全く思わなかった。助けられると信じて、ここまでやってきたのに。 負けられない、その為にはカーリーを倒すしかない。違う、助けたい、でも、方法が見つからない。ジャックの迷いを、すごく感じる。 迷いの中で彼が柱にしたのは。カーリー自身が、どう思うか。人々の魂を生贄にし出現する地縛神を見つめて、『カーリーがこの光景を目の当たりにしたら、嘆き悲しみ自分を責める』と考える。彼女を助けたいと思うのはジャックの気持ち。その気持ちが元で迷いが生じ、打つべき手を決めかねているのだから。もう時間がないと悟った時、どうするべきなのか…助けようとしているカーリー本人の気持ちに、判断を任せるというのは。彼の、『逃げ』だろうか? Scene.6 時間稼ぎにしかならないことは百も承知。その時間が、今は欲しい…ジャックはもう、なりふり構わなかった。 「バトルフェイダーを、特殊召喚!」 地縛神のダイレクトアタックをバトルフェイズ強制終了でかわし、どこかに閉じ込められているであろう〈カーリー〉に訴えた。恐らく、これが最後の語り掛けになるだろう。 「カーリー、聞いてくれ!俺はかつて、他人を思いやることなどない人間だった。仲間を裏切り、傷つけることを厭わず、己の欲望の為にあらゆるものを犠牲にしてきた男だ!だが俺は、お前によって教えられた!!傷つき病んだ心も、真に思いやる心によって救われるのだと!!!」 カーリーの心にも存在していた〈闇〉。どのようなものかは分からない、他人を思いやった事などないジャックには想像はできなかった。けれど、どんな〈闇〉だとしても。それにより彼女が苦しんでいるのなら、救ってやりたい。彼女がしてくれたように、救いたい。ジャックは本気で、それを願っていた。 本当に、心の底から願えば。その願いは叶うのだと。カーリーのまっすぐな心は、ジャックに信じさせていた。 彼はついに口にする。誤魔化し続けていた本心を。 「俺は今、心の全てをかけて願う!真に愛する者、お前を救いたい!!」 愛する者。それが、世間で言われるものと同等なのかは分からない。ただ、ジャックの中で。彼女を愛しいと思う気持ちは、本物だった。 本物なのだ…嘘はない。 俺は心から、お前のことを考えている! 刹那、ジャックは愛機と共に不可思議な光に包まれた。 ひどく熱いものを、背中に感じた…。そうして悟る。仲間にはならないと、拒絶し続けていた自分の元に、彼らの心が駆けつけてくれたことを。 (仲間…そう、か。これが仲間、なのか) 導かれるままに、彼は運命のカードを引いた。 * * * ・ここまで、決定的となるような攻撃を避けていたジャック。もしカーリーが、完全に悪に染まっていたのなら攻撃できたのかもしれない。けれど正気に戻ったカーリーを確認したことで、彼は彼女を傷付けられなくなった。 カーリーの消滅に繋がる彼女の敗北。自分は負けない、けれども彼女を負かすこともできない。ジャックは呼びかけて、カーリーの心に訴えることしかしてないけれど。操られているだけの、大切に思う人に対して。この時の彼にそれ以外にできることが、あったのだろうか。 ・他人を思いやったことなどないと言うジャック。彼にとって、仲間というものは大した意味を持たないものになっていた。一度、自分から捨てたものだから、それを頼りにするわけにはいかなかっただろう。結局、人はひとりになるのだと自分に言い聞かせて、実際一人になってもそれなりに望む物は手に入れられたから。仲間など必要ないものだと思い込もうとした。 今、ジャックは一人ではどうしようもないところに追い詰められている。諦めそうになっているこの状況で、背中に感じられた彼らの痣。ジャックは、みんなが『仲間』であることの意味を肌で感じた。それは頭で考えるよりも、人から押し付けられる価値観よりも、何よりも素直に聞き入れられるものだったのではないか。 Scene.7 ドローしたカードを確認したジャックは、苦しげに頬を歪めた。確かにこれで、危機は脱する。しかしこれを使えば、彼女は…! 「(ジャック…)」 「!」 囁くような、呼び声が耳に届いた。 「(ジャック…ジャック…)」 視線を上げると、前を走るカーリーが不気味な笑みを浮かべこちらを見ている。その、顔の上に。 「あ…」 彼女の面影が、見えた気がした。 「(ジャック)」 「!!」 突如、ジャックの体は強い光に包まれる。 気がつけば、彼は白い景色の中に立っていた。 「(ジャック)」 「カーリー!」 ジャックの名を呼ぶ声は、いつものカーリーのものだった。姿は見えない、けれども確かに、そばにいる。 「(ジャックお願い。もう終わりにして)」 「なんだと」 「(これ以上、私のせいで貴方や多くの人を傷付けたくない)」 「馬鹿な!きっとまだ他にも方法がある!!」 「(本当に私のこと、思ってくれてるなら…)」 「だが!そんなことをすれば、お前はもう…!」 「(これは私が自分で選んだ運命なの。貴方は私のことを本当に分かってくれた…だから、お願い。貴方の手で、とどめを刺して…)」 * * * ・ギリギリまで、カーリーを助ける事を考えていたジャック。そんなジャックに、カーリーは〈終わり〉を望む。自分で選んだ運命だから、どうか聞き入れて欲しいと。 『貴方は私のことを本当に分かってくれた』 正気に戻ったカーリーに、ジャックは『誰よりもお前のことを分かっている』と言い切った。それは、カーリーが初めて聞いたジャックの気持ち。カーリーに対する、ジャックの気持ち。それを直接、聞くことが出来た。一方通行ではなかった。ジャックの感情が自分と同じものかは分からないけれど、それでもあのジャックが、自分に対し表現してくれたこと。それが意味するものは、大きかった。カーリーはきっと、満足した。 ジャックに言ってもらえたカーリーの笑顔は、嬉しそうだったけどどこか儚く見えた。あの時、彼女は覚悟を決めたのかもしれない。ジャックがきちんと伝えてくれたから、カーリーは、終わりを選ぶことができたのだ。 ジャックはカーリーに対し、自分で運命を選べと言った。その結果が〈終わり〉だとしても、彼女が自分で選んだものならば。ジャック自身の希望がどうであろうと、拒めない。 『…お前が本心から望むなら、その通りにしよう…』 互いに、相手のことを思いやった決断。二人の気持ちが始まったあの時間、あの場所で。あの時のままのカーリーは明るく笑う。 『ありがとう!ジャック!!』 戦いを抜け出してきた〈今〉のジャックの姿が、彼だけが前に進むのだと感じさせる。 Scene.8 「カーリー…。この命、一度はお前に救われたようなもの…」 ジャックもまた、覚悟を決めていた。 「望みどおり、一撃で止めを刺してやる!」 (だが、安心しろ…俺はお前ひとりを、死なせはしない…) もう迷いはない。一度で決めてやる、必ず。このデュエルを、ここで終わらせる。 ジャックは伏せカードを見つめていた。そこにあるのはショック・ウェーブ。フィールド上のモンスター一体を破壊し、その攻撃力分のダメージを互いに与えるカード。これでセイバーデモンドラゴンを破壊すれば、両者に6500のダメージが与えられる。同時にライフは尽きる…つまり、引き分け。 負けはしない、だが俺は、勝つこともしない! 「これこそジャック・アトラスが、自ら選んだ運命だ!お前と共に果てるのならば、悔いはない!!」 * * * ・キングではなくなったけれど。ジャックはやっぱり、どんな状況であろうともデュエルに勝ちにいく男なのだと思い知った。 カーリーを助けたいと願いながらも、負けるつもりは全然なかったと思う。勝負に勝って、なおかつカーリーを助ける…そういう道を探っていたのがこのデュエルだった。どんなに内容がお粗末でも、ジャックらしくないデュエルだったとしても。負けずにカーリーも救うのが目的だったなら、それは当然の展開だった。 きっとジャックの中で、引き分けと負けは同じことだった。デュエルは勝つもの、勝たなければ意味がない。それがここにきて、ジャックは恐らく生涯で初めて勝利へのこだわりを捨てた。勝てる勝負にも関わらず、引き分けるという選択をした。キングだったら絶対に選ばなかった、『ジャック・アトラスが自ら選んだ運命』…自ら選択する、勝利以外の結果。 引き分ければ、カーリーは無事でいられる可能性は高い。実際、遊星とキョースケさんの最初の勝負はデュエル続行不可能で結果が出ずに終わったけど両者無事だった。勝負がつかなければ、現状が維持できる、ジャックはそう考えたのかもしれない。ショック・ウェーブを伏せていたということは、ジャックが引き分けるという道も考えていたから。最後の最後に残した『引き分け』という選択。勝利以外を認めないジャックにそれを選択肢のひとつに加えさせたことが、カーリーの存在の大きさを感じさせる。 なるべくなら、選びたくない最後の切り札。カーリーには、その気持ちまで読まれてしまった… 『もう一度、占ってあげる!貴方の、本当の運命!!』 本当の、運命。引き分けは、〈本当〉ではないとカーリーには分かっていた。ジャックが心から望むものは、引き分けではなかったはず。それは『お前と共に果てるのならば、悔いはない』という台詞から分かる。悔いはない、ということは。すすんで、望みはしないということ。引き分けすら自分に許せないけれど、相手がカーリーならば、ということでしょう…。 ・カーリーは、ジャックを阻止した。自ら勝ちを放棄しようとするジャックを、止めた。 『私の本当の願いは、貴方が全ての人に愛され、みんなに幸せを与えられる、本物のキングになること。貴方なら、きっとなれるわ…ジャック・アトラス!』 カーリーは、ジャックに勝ち続ける道を示した… ああ…もうどう書いていいか分からない。ジャックは引き分けてでもカーリーを死なせない選択をした、どうしてもカーリーを助けたかった。どんな手を使ってでも。無様なデュエルでも、らしくないデュエルでも、最大のこだわりを捨てる事になってでも。カーリーを助けようとしたのに。けど、カーリーは…カーリーは…全ての人に愛されみんなに幸せを与えられる、強くて、カッコよくて、いつだって勝ち続ける、ジャックでいて欲しいって思って。結果としてはカーリーのお陰でジャックが勝った形になってしまったけれど、私はやっぱり、カーリーを助けたかったジャックの気持ちを考えるから、ジャックらしくないともかっこ悪いとも思えなくて、だけどこの部分に納得できないっていう意見を見れば、自分もそうだと思う気持ちもあって複雑。だからこそ、カーリーがジャックに対し『みんなに幸せを与えられる本物のキングになること』を望んだのが、そういうことかなと理解できたりして。カーリーが本当にジャックのこと思ってくれているんだと感じられてすごく切なくなって涙が止まらなくて。カーリーが引いた占いのカードのジャックの絵、そこにある彼の笑顔にまた泣けて、カーリーの手の中から飛んでいくカードを見ていたら辛くて、大泣きで、なんだかぐちゃぐちゃ。どうしてもまとまらない。 Scene.9 勝敗は決した。カーリーのライフは尽き、地上絵は消えてゆく…。攻撃波に吹き飛ばされた彼女は、地面に叩きつけられた。ジャックは愛機を乗り捨て駆け寄った。 「カーリー!カーリー、カーリー!!しっかりしろ、死ぬな!」 ぐったりするカーリーを腕に抱き、ジャックは必死に呼びかける。俺はまだ望みを捨てていない、信じればきっと…。祈るようなその声に反応して、ゆっくりと、瞼は開かれた。 「ジャック…どこにいるの…?」 虚ろな瞳に、光はなかった。 想いを伝えるかのように、カーリーを抱くジャックの腕に力がこもる。 「ここだ!ここにいるぞ…」 「おかしいな…なにも…みえない…」 「しっかりするんだ、俺をよく見ろ…」 ジャックはそっと、彼女の顔にメガネを乗せた。 「あ…」 カーリーの瞳に、彼の姿が映ることはなかった。けれど…かつてこのレンズを通して、そこにいるであろう人を見ていたのだと。懐かしいメガネの重みが、嬉しかった。 「わたし…ジャックみたいに頑張っている人を応援するのが好きだった…なのに、自分勝手な幸せを望んだりしたから…。きっと、バチが当たったんだね…」 「何を言う、誰にでも幸せを願う権利がある。それが罪だと言うのなら、この俺も同罪だ!」 「ジャック…きっと世界を救ってね?わたし、応援しちゃうんだから…」 もう、本当にお別れだから。こんなことしても、怒られないかな…そんなふうに思いながら、カーリーは静かに腕を伸ばした。ジャックは迷うことなく、応える。 抱きしめたカーリーは冷たかった。首に回された腕も、胸の中に感じる身体も、冷たいものだった。けれどもジャックには、感じられた。カーリーの心の温もりが、そのまま。 「だいすき…ジャック…」 耳元で囁かれた告白。 それが、最後になった。 カーリーの姿は、塵となり、ジャックの腕の中から消えた。 「カーリー…」 失われてゆく〈カーリー〉であったものを、掴もうとしたが。その指はむなしく宙を泳ぐだけ…。 「……」 グッと拳を握り。ジャックはゆっくりと立ち上がった。 見上げれば、暗い天上へと舞い上がる儚い光。 (カーリー…) 彼はそこに誓う。 この先、自分は。 勝利だけを求めると。 * * * ・…私は、ジャックが大好き。 そして同じくらい。 ジャックを大好きだったカーリーが、大好き。 |
| (20090617) |
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