■〜SECRET〜■


〈 3 〉 20070505



闇の中に灯る、小さな蝋燭の明かり。
そこに浮かび上がる二つの影は身動ぎもせず見つめ合う。


当初の目的を果たしたはずの盗賊は、未だ王の寝室に留まったままだった。

一方的な『交わり』は嵐のように彼らの上を過ぎ去ったというのに。

その短い行為の中で生じてしまった意地の為、バクラは横たわる少年の傍を離れられず、またアテムは覆いかぶさる男から逃げられずにいた。


静かに、時間だけが過ぎていく。









長い沈黙を破ったのは、バクラの方だった。



「あんたさ、コレ、どういう時にヤるか分かってんの?」

からかう様に、軽いノリで話しかける。
アテムはただ、バクラを見ているだけだった。
無表情のまま、眉一つ動かさず。

黙って、見ていた。

「これは本能。子孫ハンエイの為に、動物なら当然持つべき『欲』だ。つまり」

一呼吸置いて、アテムの腹部を人差し指でちょんとつつく。そのまま、指先で円を描きながら子供に教えるような声音で続ける。

「普通なら、オレ様が蒔いた『種』はここで育って一つの個体になる。あんたがメスならな、この中にデキるってワケだ。オレは別にガキなんざ欲しかねぇけどよ……勿体ないと思わねぇかい?」

ふふんと鼻先で笑い、ゆっくりと顔を近づけて。
傷一つない、滑らかなその部分に口付けて呟いた。

「もし、そうなら。オレ様が未来のファラオの親になるかもしれなかったんだろ?はっ!こんな薄汚い盗賊がオヤジだぜ?!考えてみりゃ、残念だよな」

そうしてずるずると上体をずらし、アテムの耳元へ口唇を寄せる。




「ホント、勿体ねぇなぁ……」

妙に、実感のこもった台詞だった。



(残念)

その気持ちは、本物だったから。




こいつの腹の中に吐き出した、オレの精。一体こいつらはこの中でどうなるんだ?別の何かにはなり得ない、そんなこと分かりきっている。なら、目的を果たせなかったこいつらは、吸収されてこいつの一部になるか?それとも、排泄されて、打ち捨てられるのか……?

低い声で、ひとり言のように吐き捨てる。

「……たっぷりと注ぎ込んでやったのによ、あんたの腹の中で迷っちまった」

急にアテムの肌が熱くなったように感じて。バクラは横目でちらりと確認した。

僅かな光源に照らされ浮かび上がる顔はひどく白くて。小刻みに震える唇を噛むその様子から、必死で屈辱に耐えているのが分かる。ふいっと視線を上方に向ければそこには縛られたまま動かせないでいる二本の腕。邪魔にならないようキツく縛り上げたが、バクラに挿入された際、かなり身を捩ったのだろう。帯は柔らかな肌に食い込みうっすらと血で赤く染まっていた。

(まだ。解いては、やらない)

これでは、耳も塞ぐことができないだろう?聞きたくなくてもしっかりと聞こえているよな……オレの、声が。どす黒い感情を、そこから染み込ませて刻んでやる。『オレ』の存在を、貴様の中に。消えないように、捨てられないように――


「だがな、これだけじゃないぜ。こりゃ畜生レベルでの話だ。人間サマがこいつをヤるのは、他にもワケがある。くだらねぇ理由を並び立てる奴もいるけどよぉ……要は、愉しむ為だ。ただ、キモチよくなりてぇからヤる。それが『快楽』ってもんさ。オレにとっちゃ、こっちの方がイミ、大きいんだよな」




いつだって、バクラは自分さえ気持ちよければそれでいいと思っていた。
けれど。
これから始めるゲームでは、方針を変える。

『感じる貴様を見てみたい』
『ありえない』

断言した。ありえない、と。
バクラはここから、アテムの強固な意志を読み取った。この短い答えはアテムがこの場に於いて『快楽』に溺れる事を許さないと己に誓ったということだ。ならば、そいつを曲げてやろうじゃないか。きっと面白い画が見られるに違いない。感じさせてみせよう、溺れさせてみせよう。その結果が、アテムにとって肉体的な痛みを与えるよりも大きな打撃になる。
そう、確信して。

(あんたがヘンに頑張るからだぜ?……火ぃ、ついちまった)




改めて、バクラは舐めるような視線でアテムの体を見下ろした。




バクラがこれまで相手にしてきた女は数知れない。来る者は拒まなかったし、自分から興味を持った者は例え他人のモノだろうと奪ってきた。
今のアテムのように、強く抵抗した者もいたけれど、必ず最後にはバクラの前に膝を折った。皆、彼に翻弄され、不本意ながらも自らバクラを求めよがって見せた。その瞬間、相手の全てがバクラのものとなった。
結局、意地を張り通せた者はただの1人もいなかったのだ。
どいつもこいつも大したことはない。所詮、『快楽』の前で人は無力だ。

(無力)

(力がない)

(……いらない)

(必要ない……)


ふと気がつけば、たった今手にいれたものでさえ興味はなくなり。
取り縋る者ほど容赦なく切り捨て背を向けた。そうして二度と振り返ることはなかった。

だから誰一人としてバクラの中には残らない。
記憶するほどの価値はどこにもなかったから。





(あんたは、どうだろうな……?)


何もかもが、これまでの相手とは違う。
この先に待つものが、今までバクラの中を通り過ぎて行った女共と同じものだったとしても、それはそれで構わない。こんなもんかとあざ笑うだけ。
けれど、もし。
全く違う結果が得られたなら……?
自分自身、どう対応するのか予想もつかない。

この時バクラは、新しい玩具を与えられた子供のように胸を高鳴らせていた。

「どうせなら、一緒に楽しもうぜ?まだまだ夜は長いんだ。意地張っててもシンドイだけだと思うがな……」

同意するはずがないことは承知の上で挑発する。
こうして、反発をあおって。更に引き出すのだ、その『強がり』を。

(最後の最期まで抵抗してみせろ……そうすれば、オレ様が得るものはとてつもなく大きくなる)


バクラから何を言われても、アテムは感情を表に出さなかった。
ただ一点、紅い瞳はバクラの前に屈しないことを主張している。

それはまるで闘いを挑んでいるようにも見えて。

その姿勢を、バクラは素直に評価した。

(いいだろう。もし、貴様が……)

いまだ光を失わないその瞳に敬意を表して。彼にも分があるルールを作った。
心の中でそっとそれを告げて。




(ゲームの、開始だ)




アテムの体を跨いで膝をつき、傍に転がっていた円筒状の背あてを彼の体の下に入れた。上半身は弓なりに反り返り、丁度胸をバクラに突き出す形となる。縛られたままの腕は依然頭の上。
先ほどの行為の余韻を残したままの状態で、さらに襲い来る未知なる体験への恐れも加わり。アテムの薄い胸は荒く上下していた。

彼の左右の腋の下に両手をつき、バクラは身を屈める。
そうして再度顔を近づけて、アテムの耳朶をぺろりと舐めた。

「いつでも。声、出していいんだぜ?」

そのまま、唾液をたっぷりと乗せた舌で、アテムの首筋をねっとりと舐る。

何度かアテムは小さく喉を鳴らした。そうやって唾を飲み込むのは緊張している証拠だ。いくら口で強がっても、こうして色んな反応が現れてくる。その一つ一つがバクラの戦利品となる。

あんまり愉快で、気分よく。
口数が多くなっていることにも気づかない。

「王サマ……あんたのまわりにゃオレみたいなの、いないだろ?」
「……」

アテムは肯定も否定もしない。だが、いるはずがない。だからこれからバクラが目にし、耳にし、手にするものはバクラだけのものなのだ。それを、自覚して。更に悦びは大きくなる。

「誰もがあんたに跪き、気を使い、距離をとって分をわきまえる。今までは、さぞかし大事にされてきたんだろうなぁ」
「……何が、言いたい?」

掠れた声で、アテムは応えた。その返事が、まるで罠にかかった獲物のように思えて、より残忍な気分になる。

「あんたがさ、あんまりにもおキレイだからさ。こんなふうに――

言いながら、ドクドクと脈打つ首筋を強く吸った。
瞬間、息を詰めたアテムだが、声は漏らさなかった。

「こんなふうに、肌に食いつくヤツ、いなかったろ?」

右も、左も。
前も後ろも何ヶ所も吸った。
バクラが決めた『領域』の内側に、構うことなく印をつけてゆく。

(こいつはオレの、所有物……)

今は誰も気づかない……その刻印を散りばめて。

それからおもむろに体を起こし、少し下にずれる。

「こんなふうに……」

見せ付けるように突き出した赤黒い舌を、臍の窪みに押し付けて。ずずっと下から上へ、一気に舐め上げる。

「穢れた舌で、カラダを舐めまわされることもなかったろ?」

これ見よがしに舌なめずりをして。にぃっと笑い、アテムの反応を促した。



「本気で、そう思っているのか?」
「はっ?」

相変わらず無表情のまま、アテムはバクラの目を真っ直ぐに見上げて口を開く。

「心から、そう、思っているのか?」
「……何が……」

嫌な空気だった。
濁りの無い、透き通った瞳で問われて。バクラは少し、落ち着かない気分になる。

「『薄汚れた盗賊』、『穢れた舌』……。貴様は、本当に自分のことをそう感じているのかと聞いている」
「……」

今度は、バクラが黙り込む番だった。

「他人にどう思われようと、貴様は自身で己の値打ちを確定できる。それなのにわざわざ、自分を貶めるような言葉ばかり口にして。貴様はそうやってオレを蔑んでいるつもりなのだろうが、オレには……貴様が自らの価値を落としているだけにしか聞こえない。人を区別するのにキレイも汚いもないだろう?貴様のしていることは、……盗みや、他人を傷付けるようなことは当然許されるべきものではないとオレは思う。だが、それを汚いとは決めつけられない。オレがそう感じるには、まだ貴様に関する材料が足りない。だから今は、自らを卑しく喩えてまで『快楽』を得ようとするその姿勢を、ただ、『憐れ』だと感じるだけだ」
「ハッ!!」

あまりに可笑しくて、ヘドが出そうだった。

「そういうトコがおキレイだってんだよ。分かってねぇな、世の中にゃ理由のない『決めつけ』ってのが溢れてんだ。『キレイ』も『汚い』もあるんだよ。それになぁ、誰も『キレイ』が上で『汚い』が下とは言ってねぇ。憐れむのは勝手だがな、てめぇの価値観をオレ様に押し付けんじゃねぇ!オレは何も恥じちゃいない、穢れた自分にこそ誇りを持てるからな。この世界はどこもかしこも薄汚れて腐ってる。あんたが普段目にしない俗世ってのはそういうもんだ。そこから切り離された塀の中に閉じ込められて、おキレイなものに囲まれているあんたはさぞかし不自由だろうとオレは逆に憐れを感じるな。王サマの知ってる世界ってのはほんの一部だ。オレからすりゃ、この世を動かす支配者ほど、真実を見抜けねぇ無知で恥知らずな存在だぜ。だからこそ……」

鋭い視線でアテムを射抜き、言い放つ。

「無菌状態で何の免疫も持たないあんたみたいなのをさぁ……こっちのイロに染めてやんのが面白れぇのよ。ハッキリ違うんだよ、おキレイなあんたと薄汚れてるオレとはな。じゃなきゃイミがねぇ……満足してるんだぜ、愉しくてしょうがねぇからよ。なんつったって、あんたは何も知らねぇガキだ。心も体もまっさらなお子サマよ。更にお育ちもよくって汚れもシミも全くないときたもんだ。まじりっけなしの純粋培養ってトコ?そこにこうして……」

興奮のあまり再び勃ち上がったモノをアテムの腹に押し当てて。

「何度でも注ぎ込むぜ、少しずつ……あんたがオレのイロに染まるように。それから――

アテムの頬を両手で包み込み、互いの唇が触れる寸前まで近づいた。

「あんたに」

ぺろりとアテムの口の端をなめて。

「じっくりと教えてやるよ」

にやりと笑みを浮かべた。


「オトナになる為の『快楽』ってヤツを」


あえて視線を合わせる。
アテムは決してそこから逃げない、だから、追い詰められる。


「そうしていつかはオレのトコまで堕ちて来いよ……今のうちだぜ?そうやって高いとこから憐れんでいられるのはさぁ」
「高いも低いも無い。貴様がどう思おうと、オレはそういうつもりは全くない。ただ」

真っ直ぐな瞳で。

「……何があっても、」

瞬きもせず、アテムは答える。

「オレは、これまでと変わらない。こんなやり方では、貴様にオレは、変えられない」
「それが、いつまでもつかな……」



静かに呟いて、アテムの瞳を見つめたままバクラはそっと唇を落とす。アテムもまた、決してバクラから目を逸らさなかった。けれど、ぎゅっと口の端を結んで、バクラのそれに触れないよう唇を隠してしまった。

(可愛いもんだ、こんな抵抗……)


やっぱりガキだ。考えが甘く、言動がいちいち純粋で笑ってしまうほど。相手の力量を測ることができず引くことも知らず。正面からぶつかってくる真っ直ぐな心が子供の持つ『それ』だ。
確かにそう、呆れているのに。
なのにバクラは絡みつく視線を自分から解けない。どうしても、引き寄せられてしまう、彼の持つ、強い光に。

(こういうの、『高潔』って言うのか?)


――欲しい――


かつてこれほどまでに、強い『欲求』を感じたことがあっただろうか?
そこに小さな惧れを感じた。
手に入れてしまったら、自分がどうかなってしまいそうで。

(……いらねぇよ)

気分を変えようと、軽く頭を振って。
それから体を起こして、手を伸ばした。

彼の金の前髪を指で何度かすき、そして親指を額に乗せる。

「難しい顔ばっかしてたら、ここにシワが寄るだろ?そう、緊張すんなや」

そのまま眉間から眉を辿り、目尻に残る涙の痕を追いかけた。


――欲しい――


(いや、いらねぇ)

湧き起こる嫌な感情を押さえ込んで。
冷やした心で言を吐く。

「悪りぃな、泣かせちまってよ。いきなりヤっちまったもんな、痛かったよな。あ、それとも、悔しかった?」

言いながら、片方の手をそっとアテムの背にまわす。
バクラの意図を感じとったのか、アテムは身を固くした。

「傷になってたらキモチイイもんも感じられねぇかなぁ。今すぐ、教えてやりてぇんだけどな。知ってるかい?涙ってさ、キモチよくても出るんだぜ?もしかしてこれはそうだったかなぁ?あんな風にキツイのが良かったとか?」

意地悪く、笑う。
何も答えようとはしなかったが、初めてアテムは表情を歪めた。
明らかな嫌悪を表にして、バクラをきつく睨みつける。

(これだろ、オレが欲しいのは)


――欲しい――


違う、こんなのじゃなくて。

(違わない。欲しいのは、この先にある『絶望』)

バクラの手は、そのままスルスルと下方へ移動し。
辿り着いた双丘の溝の中に指を滑り込ませた。

「っ!!」

びくっと大きくアテムの体が揺れ、全身からどっと汗が噴出したような錯覚を覚えた。何とか声を出さずにいたのはさすがだとバクラはどこかで感心する。
緊張だけじゃない、恐れだけじゃない。
これは相当な痛みを感じている証拠。

実際に、そこには簡単に癒えない傷をつけてしまったのだ。

(失敗したな……)

先ほどの、乱暴な挿入をちょっとだけ後悔した。
このゲームの目的は、肉体的な痛みを与えることではない。少し触れただけでもこんなに過剰な反応をするならば、今日のところはここを使うことを諦めねばならないだろう。
無理はさせない方が……



(ムリヲ、サセナイ?)



はぁ?
無理をさせないって、ナンだ?



自然とそんな風に考えた自分に愕然とした。

何故、こんな気遣いがこいつに必要なんだ?
違う、間違えるな。
感情をすりかえるんじゃない!

警告音が鳴り響く。

これ以上は、ヤバイ。
よく、分からないが、

(深く、入り込みすぎている)

心を落ち着けるように、目を閉じて。必死で考えをまとめる。

こいつに快楽を与えることは、それがイコール絶望につながるからだ。
間違えるな、悦ばせることが目的じゃない、傷付けることが目的だ!
そうして歯向かえないくらいに打ちのめしてやれれば……それで。

たとえここでメチャクチャにして、使いモノにならなくなったとしても。
別に構わないだろう?

どうせ、次に出会う時、こいつは『死ぬ』のだから。
それは、確実にオレが『殺す』時なのだから。

だから、構わずやっちまえばいい!!

妙な焦りがバクラを襲った。



「ぃっ!!」

短い悲鳴を飲み込み、アテムは下肢を突っ張らせた。
傷口をえぐるようにして、バクラがいきなり指を差し入れたのだ。

「ひとつ、教えておいてやるよ。簡単におっ勃てるポイントがあってな……」

低く、くぐもった声でバクラは告げた。


そうだ、さっさと決めてしまえばいい。
勝負を、早く。勝つのはオレで、負けるのはこいつ。

これ以上、今の状態は続けられない――

すぐ後ろに、もうこの背に覆いかぶさろうかと迫っていた『感情』
それがひどく恐ろしい。

(負けたくない!!)

手段を選んではいられないほどに心は追い詰められて。
なんとか目の前の行為に没頭しようとする。

「ほぅらよ……」

そこを刺激すると、反応して勃つのだと……顔見知りのヤブ医者に聞いたことがあった。

(オレに、感じていなくても)

アテムをいたぶっている筈なのに。何故か惨めな気分だった。
けれどもそんな気分を振り切って、細く狭い腸内壁の前面を擦り上げる。
指先にあたるその点を、くいっと押さえ込むと。

「!!」





瞬間の、アテムの顔を。

バクラはきっと生涯忘れられないだろうと思った。





意思に反してゆっくりと頭を擡げはじめた己の茎を感じ。
ふいに襲った残酷なまでの快楽の波に飲み込まれて。
細い背中を仰け反らせ、ぽろりと零れ落ちてしまうのではないかと思うほど大きく見開かれた瞳で天を仰ぐ。
酸素を求めるように開かれた唇からは、それでも、何の音も漏れてはこなかった。


「カラダは、正直だねぇ……」

バクラの心は冷え切っていた。
あざ笑うように囁くと、逆の手でゆっくりとしごいてやる。

ぎりっと奥歯を噛み締めて、アテムは呼吸を止めた。
ほんの僅かな声もあげられないように、自らに厳しく。

けれども直後、石のように全身を硬直させた彼はあっさりと果てた。



その反応はあまりに幼くて。ぶるぶると震えている体は泣いているようにも見えた。

いや、実際に泣きたかったのは……。

(………)

無言で。

バクラはアテムが放った露を掬い取り、入り口にたっぷりと塗り込めた。そうしてじっくりと時間をかけて、秘孔をほぐしていく。今はもう、余計な力が入らなくなった体は、一度目の時より抵抗感がなかった。

痛みという刺激さえも、アテムには届かなくなっていた。
指の数を増やしても、人形のように微動だにしない。
それほど、自身の反応に打ちのめされたのだろうか。





長い蝋燭が燃え尽きてしまうまで、何度も、何度もバクラは華奢な体を貫いた。その度に、紅玉の光は輝きを失い、小さく薄らいでいく。



(勝った)


確かに、実感した。


どんなにその肌を貪っても、アテムは声ひとつあげなかったけれど。
どんなに深く突き上げても、意識を手放すことはなかったけれど。
誇り高いその意地は、余興の一つとなった。だから、バクラはきちんとルールに従った。

(あんたと、オレの間だけの……秘密……)




ついに精も根も尽き果てて。
闇夜が溶ける前に遊戯は終わりを告げた。


寝台に力なく横たわるアテムは、抜け殻のようにぼんやりとバクラを『見て』いた。
その瞳にはもはやなんの力もなく、ただ、ただ、虚ろだった。


(勝った)


意識がはっきりしているのかも分からない、その霞がかった紅色を確認し。
バクラはそう、自分に言い聞かせた。























「……っくしょ……」



女が去って、どれほどの時間が経っていただろう。
バクラは壁に背を預け、依然、その場に蹲ったままだった。





『勝った』


そう、思ったのに。

確かにあの時、王の誇りを足蹴にしてやったと。
力を失った瞳が、その証拠だったのに。

なのに。


女の瞳の中にあった『恍惚』
それを見た瞬間、敗北を告げられた気がした。


アテムと向き合ったあの短い時間の中で、何かから逃げるように焦っていた自分が脳裏に蘇る。
早く決めてしまおうと、あんな……己を誤魔化すような手を使って。

(結果が出りゃ、それまでの過程はカンケーない)

そう思い込もうとしても、スッキリしない。するはずがなかった。
結局、アテムはバクラの陵辱に屈しなかったのだから。


彼の反応は全て生理的なもので、感情が動かしたものではない。
瞳の中の光が失われて、屈したのだと思い込もうとしたけれど。

心のどこかで引っ掛かっていた『何か』は、手に入れた女たちにあって、アテムになかったもの。
それは、バクラが与えることができず、また奪えなかったものなのだ。


認めざるを得なかった。王が制したものは流石だと。
最後まで声も出さず、気を失うこともなく。
バクラの前にそうした『弱さ』を見せようとしなかった。


彼は、やはり、他の誰とも違ったのだ。







だから。

部屋を去る前に。



『またな……』



そう、熱っぽく囁いて。

そっと、半開きの唇に口付けたのだ。





既に自分で、認めてしまっているではないか。




これが単なる戯れではなくなってしまったことを――