■〜SECRET〜■


〈 8 〉 20090126



それは、初めて『得た』モノだったかもしれない。

無理矢理、奪うのではなく。
力ずくで、取り上げるのでもなく。
自然に、与えられて、受け取るもの。



相手を抱くものは。

太い首に巻きつく細い腕。
そこには、『離れない』という意思が感じられた。

華奢な体を包み込む逞しい腕。
そこには、『離さない』という決意が込められていた。


男の首に回された少年の腕が、少年の背中に回された男の腕が、しっかりと互いを繋いでいる。彼らを隔てるものは何もない。密着する体で、直接相手の熱を受け取りそして自分の熱を与える……特別でもなんでもない抱擁、たったこれだけのことが、男の心に多くのものをもたらそうとしている。





とても静かだった。静か過ぎて、怖くなる。

激しさに『生』を求め続けてきたバクラだから。ひっそりとした暗い洞窟の中でこうしていると、もう自分の時間は止まってしまったのではと己の存在をも疑ってしまう。

動きがない、何も流れてはいない……変化がない。
ここはどこだろうこれまで何をしていただろう。そんな疑問が次々と沸いてくる。けれど、出てくるたびに打ち消した。どうでもいい、余計な事は考えるな。考えずに、ただ感じていればいい。そばにある、これだけを。

バクラを包む、アテムの匂い。その甘い香りは、ささくれた心に染み込んでそうして傷口を優しく撫で覆い包んでゆく。
温かくて、温かくて、温かくて、どうしようもなく切なくなって。深く息を吸いそれで自分の中をいっぱいにしてみたら、ぐっと胸が締め付けられた。

気持ちが良いのに。どうしてこんなにも、苦しくなるのだろう。
これに触れると身を切られるような痛みを感じるのに、放り出すこともできず動けない。苦しみを堪えてでもずっとこのまま、このままでいたいと願ってしまう。


バクラは随分と長いこと動かなかった。アテムの細い首筋に顔を埋め、動けない。こんな穏やかな時間を体験したことなど一度もない……けれど、いや、だから?出来るだけ長く、このままでいたいと思うのだろう。




拒絶がなかったから、受け入れられている。
そう信じたい自分を『勘違いしている』と笑いながら、アテムの小さな体を抱きしめバクラは実感した。

きっと、〈これ〉を探し続けていた。本当に欲しかったものは〈これ〉なのだ。
その為に自分は『生き』てきた……。

常に渇き飢えていたバクラの心は、そこにある熱を、香りを、質感を、アテムを構成するその全てを、貪欲なまでに吸収していく。それらは当たり前のようにバクラに注がれた。だから、このままいけば満たされるのかもしれない、そんなふうに何度も期待しそうになったけれど。
理性がストップをかける。

(正気じゃ、ねーもん……)

受け入れられてなどいない。
アテムは今、まともな状態ではないのだから。

期待、すべきではない――――





どこかで寂しさを感じながら、バクラは太い腕に力を込めた。

「あんたを……抱いても、いいか……?」

アテムの耳元にぎゅっと顔を押し付けて。
何のこだわりもなく、そんな台詞が口をついて出た。

意識するよりも先に、表現してしまっていた。





奪うことは、簡単だった。
取り上げるのは、楽だった。
相手の意思は関係ない、欲しいと思ったものを手に入れる……それは何も難しいことではなかったのに。

――欲しい――

あんたに与えて欲しい、
あんたに許して欲しい、
そこにある、何もかもを。

「オレに、くれ……」

――与えられたい――

〈欲求〉は、いつから形を変えてしまったのだろう。

「あんたの……が、欲しい……」

〈心〉を、許して。
この自分に与えることを、どうか許して欲しい。



アテムは答えなかった。ただ、自分を抱く腕の力に呼応するように、バクラの首を抱きしめただけだった。
それを、都合のいいように解釈してもよいだろうか?
受け入れられたのだと。そう思ってもいいのだろうか……?


祈るように目を閉じたバクラの瞼の裏に、浮かんだ像は。

強い瞳でバクラを牽制していたアテム。
揺れる瞳でバクラを恐れていたアテム。
燃える瞳でバクラを憎んでいたアテム。

どれもバクラが彼にしたことに対する、相当の反応……再び開いたグレーの瞳は、断固主張した。
別に後悔するものなど何もない、オレは己の欲求に従い行動しただけなのだから。

けれど、満たされることは決してなかった。望んだものは手にしたはずなのに、足りないと思う。もっと欲しいまだ欲しい、こんなんじゃ足りないこれじゃない。そうやって常に飢えを感じていたのは何故……?

静寂の中に身を置くバクラは、自分の素直な心に耳を傾ける。
彼は初めて、それを、認めた。

ずっと、受け入れられていなかったから……満たされることはなかったのだ。
恐らく自分は、それだけが欲しかった。ずっと、ずっと、ここにいた、目の前にいる『自分』という存在を受け入れて欲しかった。
頑張らなくても、主張しなくても。目立たなくても暴れなくても、ここにいることを知ってもらいたかった。

バクラはその欲求から目を逸らし続けてきた。
この感情と向き合うことはとても〈危険〉なのだ。それなのに、

『簡単に奪っていい命なんてない』

アテムのこの一言で、直視せざるを得なくなった。あまりにストレートに、心に突き刺さったから、取り繕う事もできずに反論した。

(いや、簡単に奪われるような命だったのだ)
(軽いものだった、自分の命なんて)

その反発の中には、悲しい事実が眠っている。

(弱かったのだから、仕方ない)

存在を消されても、仕方がなかった―――




「……!」

思考が妙な方向へ流れて行こうとしている。
バクラは慌てて頭を振った。

いけない……〈こっち〉へ行ってはいけない。ワケの分からない不安。それを払拭しようとアテムの頬を撫でながら言った。

「あんたとさ……気持ちよくヤリてーんだよ」

きっと、声は届いていない。だからアテムは目を開けることもなく、されるがままなのだ。
バクラはそっと、その唇に触れる。

柔らかい粘膜は作りが小さく、バクラの口で覆うことは簡単だった。
他愛なく支配できる器官なのに、ここから発せられる言葉は人や国を動かす力を持つ。それが、表面だけを着飾った空虚な台詞でないことは、バクラ自身よく解っていた。
理想論にすぎない、奇麗事だと思う、だがその一つ一つに彼の心が含まれていた。思ってもないことは言わない、それが実現不可能な願いでしかなくても。願いこそが本物だから、アテムの言うことはバクラの荒んだ心にも届いたのだ。

バクラに対する評価も、嘘ではなかったのだろう。アテムは『決め付けられない』と言った。人間性を批判するにはバクラに関する材料が足りないからと……それはつまり。バクラのことを知ろうとする意思が存在するということで。

(なら……)

試しに、伝えてみようか。

違う世界に生まれていれば他の自分になれただろうと、つまらぬ望みを抱く瞬間が確かにあったことを。
生きていく為に必要だった意地は、持ち続けること自体負担であったことを。
本当は、〈あの時〉。終わってしまいたかったことを。

(……なーんて、さ。何考えてんだ、くだらねぇ)

けれど、自分を『見てくれる』と信じられるこの存在がここにあるから。
賭けてみたくも、なるだろう?

「なぁ……見ろよ」

唇を離して、バクラは言った。

「オレがここにいるってさ。あんたは意識して、くれるんだろ……」

声に導かれるように、アテムはゆっくりと瞼を開いたが。また、だるそうに閉じてしまう。
彼がバクラを意識したなら、拒絶されるに決まっているのに。夢の中にいるかのようなアテムに、バクラはほんの少しだけ、落胆する。

「……ま、いいけどさ……」

投げやりに呟いて、吹っ切れたフリをした。



いい、別にいい。
どんなに求めたとしても、絶対に手に入らないから。解かっている、ちょっと期待してしまっただけで。
そんなこと、『無理だ』と自分は知っている。

「だから……寝てなよ、そのまま。どっかの誰かさんが相手だと思ってさ。せいぜい可愛いトコ、見せてくれよ」

自分の首に回されている腕を解き、アテムを地面に横たえた。
とたんに冷たい空気が間に吹き込んだけれど、上からのしかかって密着すればそんなもの気にならなくなった。

緊張はない、拒絶もない。だからとてもやりやすかった。これなら、自由に操れる……バクラの意のままに、好きなように。なにもかも、全てを、思い通りに動かせる。



アテムの頭を横向かせて、おもむろに顔を近づけた。
首に唇を軽く乗せるとアテムはくすぐったそうに肩をすくめる。その仕草に、胸の奥が小さく鳴きどうしようもなく欲しくなって、柔らかい髪を掻き分け顔を埋めた。
耳下を散々舐り、首筋にそって舌を移動させる。首と鎖骨の間、やわらかく滑らかなその部分をペロペロと舐めると、くすぐったさが快感に変わったのかアテムはもっとと言うように縮めていた首を仰のかせ身体を広げて見せた。
リラックスしている様子に嬉しくなり、バクラは目の前の肌が色づくまで味わうと、今度はねっとりと肩を責める。狭い肩幅はやせている為に骨っぽかったけれど、あんまりにも綺麗だったから。ついつい離れがたく、しつこい程の愛撫を繰り返した。

「誰も知らねーんだよな。こんなに旨いのにさ」

口を離して、浮き上がった鎖骨を見ながら呟いた。

折れてしまいそうに華奢で、弱々しいのに……アテムは全然弱くない。
バクラの居心地を悪くするようなことばかり口にして、それがまた的を射てるからムカついて。ムカついているのに惹かれてしまうことが、そもそもバクラは気に入らない。
いっそ消してしまえばと、突如残酷な気分になった。

穏やかな空気に乗せられて『らしくない』言動をしてしまったけれど、優しく気遣うなんて自分には似合わない。欲しいものは力ずくで強引に『奪う』のが自分だった筈だ。そうしてでも『手に入れたい』と思う気持ちだけが本物と信じていたから。

だいたい、欲望とは残酷なものなのだ。穏やかに眠るアテムを見ていると、ますます気持ちが荒れてくる。
ああ、なんて憎らしく、そして愛しいのだろう。欲しい、欲しい、欲しくて欲しくてたまらない。このまま食い尽くしてしまえばどうだろう?柔らかな肉を引きちぎり甘い血をすすって、この細い骨をしゃぶり尽くせば後には何も残らない、もう誰も触れられない。
全てが自分の中に収まるのだ……!

叫び出したいほど昂ぶって、思わず大きく口を開け滑らかな肌に歯を立てた。が、顔を歪めるアテムに気づき、バクラは慌てて離れていた。

どくどくと緊張を伝える心音に舌打ちし、爪を噛みながらやっかいなものだと思う。
条件反射のように、いちいちアテムの反応を気にしてしまっている。何も変わったつもりはないけれど、バクラはこれまでのように好きにできないでいた。

どうしても躊躇してしまう……きっと、受け入れられる可能性が残っている限り。
躊躇する。



忌々しそうに宙を睨んでいたが。ふと、思いついたようにアテムの体を抱き起こした。バクラもあぐらをかいて座り直し、少年を後ろから抱え直すと首をひねらせて。ちゅっと瞼に口付けを落とすと、にやりと笑って言った。

「オレしか知らないあんたに。教えてやろう」

演出が必要だと思ったのだ。
静かで穏やかなこの状況で、意思を持たないアテムとするのは具合が悪い。どうも気持ちが不安定なようで、つまらない事を考えすぎてしまう……だから静寂をぶち壊すように。バクラは饒舌になった。

「特別授業だ……」

言いながら、前をはだけていた衣を肩から滑らせて、少年の半身を完全に露出させた。

「女ってのはな、ここを弄られんのが好きなんだ」

小さな豆粒のような乳首を摘み、バクラは目を細める。

「あんたを抱いて、オレも初めて知った。男でも、ここは感じんだってな」

ついさっき尖らせたそこは、すっかり元の状態に戻っている。
指先でつついてやると再び硬度を取り戻した。
左右をバラバラな動きでこね回せば呼吸も熱を帯びてくる。

「ぁ……」

ほうっとついた吐息と共に漏れた小さな声。

「な?……気持ちいい」

素直に見せる反応……それをもっと引き出したい。
他でもない、この自分と行われる営みの中で、感じる彼を見てみたい。
感じるなんて『ありえない』と言ったアテム。だがこうして実際、彼はバクラに『感じている』

「もっともっと、気持ちよくなれるからさ」

突起を弄りながら、反対側の手でアテムの両膝を立たせた。そうして膝裏に指を挿し入れ股を開くように促すと、狭い股間へと侵入する。
そこに待つモノはくたりとうな垂れたままだった。まだまだ「男」とは言えない幼い印象に、バクラは思わず笑みを漏らす。
やんわりと包み込んでやれば、アテムの背はピクンと跳ねた。

「いつか言ったっけ?こん中には、子種がつまってるってさ。今はこんなにやわらけーけどな、コーフンしたら硬くなってそんで女ん中に突っ込みやすくなんの。こうやって……」

大きな手の平ですっぽり覆い、先端に指を這わせた。
円を描くように撫でると逃げるように腰を引くから。胸の愛撫を更に入念に、時々引っかいたり抓ったりの強い刺激を与えてやる。するとアテムは、ピクピクと肌を震わせ身悶えた。

「やっぱ痛い方が、お好み?」

少し荒っぽくしごき始めると、皮からわずかに頭が覗く。手の中で育っていく過程を感じながら、じんわりと液体がにじんできたところでバクラはアテムを地面に押し倒した。

「それともこうする方がいいかな」

袋の方も揉みながら、尖っている胸の飾りを口に含んだ。
ぽろりと取れそうなほど腫れたそれを、音を立てて吸い、舌の上で転がし。
バクラは美味しそうにしゃぶってやった。

「っ……はぁっ……!」

アテムの呼吸はますます速くなる。せり上がる興奮を、バクラはその音に乗せていた。

「オレは何でも、舌で確認したい方でさ」

手の動きを早めながら、答えることのないアテムに話しかけ続ける。

「口ん中ほど、理解できる場所はないぜ?味は当然だけどな、感触がわかる、温度を知る。匂いも感じる何よりも」

ちゅっちゅと大きな音を立て。

「聴くことが、できる」



そこが真っ赤になって熱をもつまで、バクラは左右共まんべんなく味わい尽くした。それに集中しすぎて、性器を刺激するはずの手が止まっていることにも気づかなかった。

これ以上は食いちぎってしまうかもしれない、そう思ったところで漸く口を離すと、ねっとりとした糸が引く。粘着質なそれが、己の性質を物語っているように思えて、つい苦笑い。
糸に繋がれたまま男の唇はズルズルと下降し、浮き出たアバラに沿って舌先を滑らせた。骨の一本一本を数えもったいぶった往来を繰り返し、そのままさらに下方に存在するへその窪みを捉える。

綺麗な形をしていると思った。曲線はなだらかで出すぎず引っ込みすぎず。きちんと始末されていることが、『最初』から大事に扱われている事を物語る。
その周囲には殆ど肉がついておらず、筋肉の存在もわずかに感じる程度。しかしどこよりも弾力があり、それでいてやわらかい皮膚に覆われている。

初めて抱いた時から、そこはバクラの一番のお気に入りだった。すり、と頬を寄せながら、アテムの腹の上でうっとりと眠るように目を閉じる。

ああ、何て気持ちが良いのだろう。
安心して、力が抜けて、なにもせず、ただそこにずっといたい感じ。

ゆったりと瞬きを繰り返し、ふろ気づいた視線の先。そには「子供じゃない」と主張するものが。しかしバクラの目にはまだまだ発展途上に映るアテムの下生えは非常に薄く、試しに指に絡めるとやはりというか、彼の髪の毛のようにしなやかだった。
そこをかきわけ顔を覗かせる幼い男根は、バクラの誘導により一応硬く起立している。戯れに指先でぴんっと弾くと、驚いたように腹が跳ねた。

バクラはやれやれというように身を起こす。

「……ちゃんと、棒になったな。こうなりゃどんな穴にだってブチ込めるぜ?もっとも。あんたにゃ悪いけど。こいつは、どこにも入れさせない。この中に詰まってるもんはほんの一滴だって……どこにも、誰にも、やらねーよ」

どこかで寂しさを感じながら、バクラは独り言のように呟いた。



正気でない相手との行為など、一方的なものだ。目の前で起きる全ての反応にアテムの意思が関与していないことを考えれば、最初のあの時のように『虚しさ』だけが残るのかもしれない。

恐れ嫌悪し憎むその瞳を意識しながら、押さえつけ無理矢理に抱くのと。
どちらが、マシだろうか。

「いや……違う」

バクラは軽く頭を振り、弱気になりつつある自分に喝を入れた。

そうではない、思い出せ。
本来の目的は。

『神を盗むこと』




虐げられてきたバクラの人生。ここにきて、彼は〈征服〉する能力を手に入れた。
征服の報酬は相手の持つ力……そう、ディアバウンドは報酬を得る術をバクラに与えたのだ。相手を死に至らしめることが『生の征服』とすれば、コレは『性の征服』。殺さずに力を手に入れる方法として、バクラは自然とこの結論に辿り着いた。

相手の都合は関係ない。征服とはそういうものだろう。誰も相手の都合を考えて殺しはしない、犯しはしない。力を誇示して押さえつけ、己を打ち込みそうして「してやったり」と種を植え付ける、一方的なコレで良かった筈ではないか?

何度も頭をもたげる期待を打ち消しながら、バクラはアテムと向き合った。けれども適当な台詞が思いつかなくて。黙って、手の中の小さな雄を弄った。

一気にのぼりつめてしまわないよう緩やかな刺激に留め、頭を出した先端を指先で撫でるようにこする。わずかに滲み出る程度だった愛液は、しつこくまとわりつくバクラの指を濡らし滴る程にあふれて来た。
尿より余程粘性の高いそれをたっぷりと指に絡め。バクラはついに秘めたる孔へと移動した。

最初の時、かなり無茶をしたから。使うのは厳しいかと心配したけれど……傷はすっかり癒えており、障害が残っている様子もなかった。

硬く閉ざされた花弁の機嫌を伺うように、すぼんでできたしわに沿って濡れた指を滑らせる。すると、くすぐったいと笑うように力が抜け、僅かに隙間ができた。バクラはチャンスとばかりに小指を割りこませる。
一瞬身を硬くしたアテムだが、バクラがなだめる様に背を撫でてやると息を吐き、身を任せるように胸の中に収まった。

絶えず前をいじり液の排出を促し、何度もそれを塗り込んでしっかりと孔をほぐす。
準備は整いつつあった。
己のすべきことをもう一度、とバクラは頭の中で確認する。

女のように濡れたこの中に熱い雄を突き刺して、奥の奥まで侵入し。完全に繋がったところで白い液をマーキング。征服終了。紅き竜神が手に入れば、もうこいつは必要ないから……殺せばいい。
永遠にこの状態でいられるように、時を止めるのだ。
オレの精液を内部に抱えたまま……そう、ずっと一緒に。

「っ……ぁ……」

指の腹で管の壁面をあちこち押してみると、いくつかのポイントでアテムは艶っぽい声を上げた。この反応も命を奪えば見られなくなる。そう考えると完全に失ってしまうのは惜しいような気がしてきて……未だ迷いを見せる自分の心に苛ついた、その時。

「んんっ!」
「おっと!まだ……出しちゃいけねぇよ」

ブルッと震えるより一瞬早く。バクラは細い根元を押さえ、アテムの射精を抑制した。
切なそうに眉を寄せた彼の顔を見た途端、自身への不満は興奮に取って代わる。
先を急ごうと抜き差しする指を二本に増やした。

ぐちゃぐちゃと泡立つほど掻き混ぜると、呼応するかのようにアテムの性器は蜜を垂らす。何度も何度もそれをぬぐい尻へと塗り込めると、やがて穴の中は蜜でいっぱいになり、指を動かす度にごぽっと音を立てるまでになった。

滑った感触と卑猥な音色。
バクラの興奮は加速度を増し、アテムの体が揺れるほど手の動きを早めてしまう。

性器を縛られたままのアテムは解放も許されず穴を犯され、堪らないと言わんばかりにバクラの手から逃れんと腰を浮かす。

「はっ……っ……」

短く吐き出される呼吸が、あまりに苦しそうだったから。限界かなとため息をつき、手を止め、バクラは徐にそれを口に咥えた。

根元を押さえる指は解かず、亀頭部分を荒く吸う。
アテムは短い悲鳴を上げたがバクラはまだ許さない。
濡れた茎をねっとりと舐め上げ焦らしつつ、キレイな色をしたそれを「可愛らしい」と評価した。
こんな、自分と同じ用途を持つ器官に対し愛しさを感じるなど。完全にイカれちまったなと呆れながら散々舐めまわし、鈴口の割れ目に唇を寄せた。
後から後から溢れてくる蜜をじゅるじゅると音を立て吸い、タイミングを見計らってようやく戒めを解く、と。

「!!」

堰を切ったように押し寄せた。小さな体は派手に痙攣し、勢いよく射精する。

ハアハァと荒く上下する腹を見つめながら、その全てを飲み干したバクラは、まだ足りないと管に残る液まで吸い出しにかかった。

「あんたの種は残らずこのオレ様が頂く。どこにその力が含まれてるかわかんねーからな……」

ぐいっと口元をぬぐって言い放つと、アテムの足を大きく開脚させ両膝が胸に付くほどに折りたたむ。そうして細い腰を浮かせて、尻の穴がよく見えるよう上向かせた。

「優しくほぐしてやったんだからな。この前よりは、悦いハズだぜ……」

ひくついているその穴を見つめ自然と引き寄せられた。バクラじゃ、唾液でたっぷりと濡らした舌先を差し入れていた。

中はアテムの垂らした蜜で満たされている……舌を動かすたびに、中からじゅぶっと溢れてくる。充分に潤いがある。挿入に問題はなさそうだ。



入れる前に一度、アテムの顔を見下ろした。
彼は目を開けてはいたが、ぼんやりとしたその表情から視界には何も映っていないと推測できた。だが、感じているのは確実。
頬を紅潮させ、汗で濡れた髪を額にぺったりと張り付けて。少し潤んだ瞳と半開きの濡れた唇……これだけあれば……それで十分……。

痛いほどに張り詰め勃ち上がった己の先端を、後孔にぴたりとつけた。
濡れている自分、濡れている彼。
「入りたい」という欲求は受け入れられていることにする。

両手でアテムの双丘を左右に割り、穴を軽く広げると息をつめて。
バクラはゆっくりと体重を乗せた。

ずぶずぶと、入ってゆく。

「あぅ……」

僅かに苦痛の声を漏らしたが、緊張を忘れたアテムは従順に飲み込んでいった。
引っかかるものは何もない。アテムの感情は今、『死んでいる』から……何も考えずただ与えられたものを受け入れるだけのお人形。

太い亀頭はじわじわと進んでいった。
無理のないように狭い管をゆっくりと押し広げながら、奥へ奥へと進むだけ。

アテムの中はやはり柔らかくて、そしてとても温かい。
猛った雄の発する凶暴な熱は、その中で優しさに融解した。傷つけることなど到底できなかった。だからバクラは荒々しい動きを一切せずに、ただ静かに進んでいっただけだった。
根元まで完全に埋め込んだ後は、繋がったことを実感するように暫くじっとして。それでも苦しかったのだろう、アテムは身体の下に敷いていたバクラのローブを握り締め、ポロリと涙を零していた。

「泣くなよな……」

バクラもまた苦しそうに息を吐きながら、雫を指で掬った。ぺろっと舐めてみれば、しょっぱいだけのそれに何故か。胸が熱くなった。
泣きたかったのは、バクラの方。
どうしてだか……声をあげて泣きたくなった。

静かになると、どうもいけない。ツンと鼻の奥が痛くなる前にバクラはゆるゆると腰を引く。気を取り直して、入り口で浅い抜き差しを始めた。


そこには、あの夜、アテムの射精を強制的に促した快楽のポイントがある。
あの時は指だった、けれども今度は太い肉棒。
己を感じさせる為、バクラは何度も何度もそこを往復しこすり続けた。余程気持ちが良いのか、アテムはひたすら甘い声を上げ、自らも腰を振りよがってみせる。

感じてる、感じている。そう思いながらもバクラは切なさを募らせる。
この声を、この反応を、彼が自覚しているものならば。自分はもっと満たされるのではないだろうか……。

口を閉じることも忘れたように、アテムは涎を垂らしながら赤い舌をバクラに見せ付ける。誘うようなそれにまんまと捕らわれ、バクラは夢中で舌を絡めた。

休みなく腰を動かしアテムの中を自分でいっぱいにして、そうして己の口で彼の唇を覆い隠しても。欲しいものはどんどん遠くなってゆく。

繋がっているのに、密着しているのに。自分は彼の中にいるのに、彼は自分の手の中にあるのに。なのに触れるどころか遠くに弾き飛ばしてしまったような気さえしてくる。
そこに意思がないから?
正気じゃないから?
神の力さえ手に入ればいいと思いながら、そうではないと嗜めるもう一人の自分がいる。本当に求めるものは別にあるのだと。

(そんなもん、ねぇよ!!)

苛立ちを体現するように、腰の動きは激しくなる。

「や……ぁ……」

すっかりとろけてしまっているアテムの表情を見つめながら、自分を納得させる為に口にした。

「イイ、お顔だ」

違う、相手がオレだと分かった上での顔じゃない。
否定しながらも強がった笑みを浮かべ。

「そんなシめつけんなよ……イっちまったら、あんた気持ちよくさせらんねーだろ」

苦しかった、ひどく苦しかった。
ここにあるのに目の前にあるのになのにそこには何もない。

どうしてこんなに空虚なんだ?
見てないから?
見られてないから!?
そうなのか、そうならば。

正気に戻れ、起きて、目を開けて。

オレを見ろ、オレを見ろ!オレを見ろ!!



「あ……んっ」
「……たまんね……!」

激しい想いを叩きつけるように、バクラは精を吐き出した。
どくんと痛い程に鼓動が打ち、火花が散るように光が弾けた。

放出後の空白。男が最も無防備になるその僅かな時間……アテムの中で、何かが起こっていた。ぼんやりと解放の余韻に身を浸していたバクラはそれに気づかなかったが。





(終わった……)

苦しみを蹴散らす荒い呼吸を繰り返しながら、バクラは「まともな」頭で考えていた。

この場ですぐに、神の力を盗めたのか確認して。
用済みとなったアテムを殺せば、全てが終わる。

終わる、終われる、もう、余計なことを考えずに済む。
終わりたい、終わらせたい、もうこんな気持ちになりたくない!

細い首に手をのばし、ディアバウンドに竜神を重ねようとして。
視界に入ってしまった、アテムの顔。

「!!」

彼はバクラを『見ていた』

先程までとは全く違う目で……恐怖と驚愕という感情を含んだ瞳でバクラを凝視している。
バクラは妙な気分になっていた。そこにあるのは拒絶の感情だけなのに、それなのにホッとしている自分の心。

何故だ?
どうしてこんな目で見つめられることに安心するのだ……?

戸惑いながら、試しに話しかけてみる。

「王サマ、すんげーヨかったぜ……結構、体の相性良かったんだな。〈力〉を頂いたら、消えてもらうつもりだったが……」

状況を悟ったらしく、アテムの体は硬直した。あの柔らかさが嘘のように。緊張し、恐れ、身を震わせている。

間違いなく正気だ、今は正気に戻っている。それを確信した途端、息を吹き返したようにバクラは尊大にかまえた。

「勿体ないからさぁ……もう少し、生かしておいてやる」

首をしめるフリをして、口付けを交わした。



イイワケめいていると自覚しながらも、思わずにはいられない。

今回はいい。神の力を手に入れる方法を確認するだけの行為だったから。
だから今回は、これでいいのだ。

(失えない)

矛盾する様々な感情の中で、ただこれだけが、揺るがぬ本心だった。


呆然とバクラを見上げるアテム。
その表情を視界の端に縫い付けて体を起こし、バクラはさっさと身支度を整えた。

「今度は、正気ん時に……楽しめると、いいな……」

すっかり気の弛んだ心が吐露させたそれは、素直な望みだった。
たとえ拒絶されても、無理矢理だったとしても。彼の感情がそこになければ、満たされないことを知ってしまった。

歩き出す頃には、すっかりいつもの調子を取り戻していた。
とりあえず、力の存在を確認しなければ……バクラはにやりと不吉な笑みを浮かべる。
あれから数時間。この程度の時間ならば、きっとまだ、王を探してこのあたりをウロウロしているハズ。奴を、使ってやろう。その屍を突きつけて、もう一度、必ず。今度は意識のある状態で――――





すぐに戻るつもりでアテムをその場に置き去りにして。
バクラは獲物を狩りに、暗い洞窟を後にしたのだった。